研究の紹介

キラル誘起スピン選択性 (CISS)Chirality-induced spin selectivity

近年、らせん構造に代表されるような、右手/左手の区別をもつキラルな物質に電流を流すと、電子スピンが非常に高い効率で偏極することが分かってきました。キラル誘起スピン選択性 (CISS) と呼ばれるこの現象は、従来の物性物理では見落とされてきた、キラリティ固有の新しいスピン-電流結合に起因すると考えられていますが、その起源はまだ十分には分かっていません。

これまで私たちは、CISS効果を理解する鍵が、キラル物質が持つ非線形応答にあるのではないか?という仮説のもと、非線形応答から予測される物性を様々な手法を用いて観測してきました。CISS効果の背後にある統一的で直感的な描像を提示・実証することを目指して、日々あれこれ考えながら研究を行っています。

Physical Review Research 7, 023056 (2025).
Nature Communications 14, 4530 (2023). 
Small 19, 2302714 (2023).

電子ガラス / 電子結晶charge glass / charge crystal

電子はクーロン反発を通じて互いに影響し合うため、理想的にはできるだけ離れて整列しようとします(電子結晶)。しかし、実際の物質中では、結晶格子の配置と電子結晶の並び方との間にミスマッチが生じるため、電子は互いに妥協しながら配置を決めていきます。こうした状況は幾何学的フラストレーションと呼ばれ、特に三角格子のような構造で顕著に現れます。
私たちは、三角格子をもつ有機物質に着目し、幾何学的フラストレーション効果を最大限活用することで、電子結晶を抑制し、電子ガラス相と呼ばれる新しい非平衡量子状態を実現することに成功しました。これは、量子的な多体系である電子が、あたかも古典的なガラスのように振る舞う非常に面白い状態です。現在は、電子ガラスの形成機構や、そこに現れる特有の機能性を調べることで、非平衡電子物性の新しい側面を明らかにすることを目指して研究を進めています。

Physical Review Letters 125, 146601 (2020). 
Nature Materials 18, 229-233 (2019).
Science 357, 1378-1381 (2017).
Physical Review B 89, 121102(R) (2014).

磁気スキルミオンmagnetic skyrmions

磁気スキルミオンとは、磁性体中の電子スピンがナノスケールで渦状にねじれて並んだ「磁気渦」構造のことです。個々の磁気渦は、トポロジカルに保護され、あたかも安定な粒子のように振る舞う、という面白い特徴を持ちます。私たちは、スキルミオン研究の舞台を、一般的な熱平衡状態ではなく、電流駆動による非平衡状態へと広げることで、スキルミオンの新規物性の開拓に取り組んでいます。このような新しい着眼点にもとづくことで、熱平衡相では決して見えない新しいスキルミオンの凝集形態や、非平衡相ならではの新たな機能性を発見することに成功しています。

Physical Review B 106, 144425 (2022).
Physical Review B 102, 180411(R) (2020).
Physical Review B 100, 094410 (2019).